さぁて。
なにをどう思ってこの本を書いたのか?
実名小説 口蹄疫レクイエム 遠い夜明け/山田 正彦
- ¥1,890
- Amazon.co.jp
山田前農林水産大臣が口蹄疫の本を出版したことを知って、まず最初に私が思ったことです。
口蹄疫まっただなか。
誰もが混乱に陥っていました。
私たち畜産農家も対岸の火事とは思えず、テレビや新聞では知ることのできない情報はネットでこまめに情報収集し、息が詰まる思いで見守っていました。
ワクチン接種への道のり。
種雄牛をめぐる国と県との対立。
誰もが混乱してたとはいえ、同じ決断を下すにしてもハートがあるかないか、で発する言葉の温かみが違ってきます。
立場の違いで考え方が違うのは当然のこと。
でも真摯に向きあい、ぶつかり合い、お互いの妥協点を探りあう。
そういう姿を国民が見ることが出来ていれば、もっと受け止め方は違ってきたでしょう。
でも山田前農水相なりの捉え方があったのかもしれない。
彼なりに何をどう考え、決断し、口蹄疫に向かい合ってきたのか。
マスコミからは流れない、ほんとのところを知りたい。
Amazonでのレビューが散々な本書でしたが、読んでみなけりゃわからない。
というわけで、購入を決めました。
まず率直な感想から述べさせてもらうと
ずるいな
です。
実名小説いうことで本人も「山田」という名で登場します。
本の帯には「衝撃のノンフィクションノベル!東国原前知事とのバトルに迫る!」なんて書いてあったので、
どんなバトルが繰り広げられるかと思ったら、あれ?出てこん…
県知事の登場があまりにも少ない。
「山田」と県庁職員や市長、農家との会話は「ですます」調なのに、県知事との会話は「」の中に単語が羅列しているだけ。わかりやすく表現すると英文を和訳した感じです。
本当にお互いこんな風に言いっぱなしの会話をしたのかしら。
それとも県知事との会話を書くのも嫌なのかしら。
バトル云々以前に、県知事が眼中にない印象を受けました。
東国原知事の涙の会見についても、「えっ?」というような感想が書かれていました。
大臣という立場の人がこんな風に腹の中で思いながら口蹄疫に取り組んでいたのか…
口蹄疫がここまで被害が広がったのは、県知事の危機的認識がなかったから。
それに尽きるようです。
県知事を批判的に書くことにより、国の方針と「山田」を正当化しようとしたのでしょうが、なんかしっくりこないものが残ります。
こんな風に県知事を思っていたのなら、歩み寄れるものも寄れなかっただろうなぁ…。
でも口蹄疫が始まってからの流れは非常にわかりやすく書いてあります。
あと読んでいて気になったのですが、スーパー種雄牛「忠富士」の説明に、
忠富士の父親は安平の子、母親もその安平の子になるので近親相姦の顕著な例にあたるとありました。
牧場主も「ここ違うよねぇ」ということで、忠富士の血統図を引っ張り出してみましたよ。
忠富士の父親は平茂勝。2代祖は安平。3代祖は第20平茂になります。
ちょっとややこしいのですが牛の血統は母親をベースにさかのぼります。
父親はそのまま父親、2代祖は母親の父、3代祖は母の母の父になります。
この忠富士の説明では、母親(みふく2の4)は安平の子であり、母親の説明はあっているのですが
父親の部分が違うような気がします。
父親は平茂勝。
平茂勝の父は第20平茂で、2代祖は宝勝、3代祖は福花5です。
うーん、どこに安平がでてくるのだ??どうして忠富士の父親は安平の子という表現になったのだろう。
でも山田前農水大臣も調べて書いただろうしなぁ…私の読解力が足りないだけかもしれないし。
血統に詳しい方、もし私の指摘が間違っていたら教えてください。
早急に訂正いたします。
他にも突っ込みどころはあるのですが、そんなこんな指摘してもタイトルにあるように「実名小説だよ、これは。小説。」と言える。
だからずるいと感じたわけです。
逃げ道を作ったような感がしてなりません。
レクイエムー鎮魂歌
現場ではまだ口蹄疫は終わっちゃいません。
その残した爪跡に苦しんでいる人がたくさんいます。
被害を受けた方々に補償も終わり、みんなが未来に向けて歩きだせるようになったときはじめて、このタイトルが意味を持つのでしょうね。